• Momoyo

22km




高校時代、諏訪湖の一周・20キロを走る、という夏合宿に参加しました。

それは8月のことだったと思います。

当時どのぐらいの気温だったのか、思い出せないのですが、長距離仲間のみんなは私の両耳の後ろに「まるでナメクジがそれぞれ乗っかってるみたい」にぷっくりと日焼けによる水膨れができてしまったことは、未だに覚えているらしい。

私は確か帽子をかぶっていたはずだし、顔には日焼け止めを塗っていたはずなのに。

でも、耳の後ろに日焼け止めを塗るという考えがあったのか?そんなこと、普段は考えもしませんよね?何度も言われたので、見えるはずないのに自分の目でそれ見た覚えがあるような気さえしているし、諏訪湖イコール日焼け、のような思い出になってしまっています。


その思い出を彷彿とさせる、22キロの丘歩きを敢行した2021年8月25日。ベルギーのRedu(ルデュ)という古本屋街があるのですが、そこを起点にした丘歩きの行程を「アルデンヌ南部の歩き方マップ」から選択しました。一番、楽そうな「山歩きブーツ一個分の印」がついていました。それに、天候か体調が悪くても本屋さん巡りに変更できるし、と思ったのです(確か13軒の本屋さんがある)。


ただ、22キロ、というのはどのぐらい時間がかかるのか、私にも夫にもよくわかりませんでした。本にはいろいろなアルデンヌ地方の丘歩きコースが紹介されていて、どれも19キロから24キロでゆっくり1日で行ってこられるよ、という感じの説明に見えました。それで、車で朝ブリュッセルを出て、昼前にルデュに着くようにして、一回分のお弁当と水さえリュックに入れていけば午後には終わるだろう、という気持ちでした。


ここで「諏訪湖を走るのに2時間しかかからなかったし〜」などということが頭をかすめた私が馬鹿でした。あそこは平面だったのに比べ、こちらは山のないベルギーと言えど、なかなか峻険な丘が私たちを待ち受けていたからです。丘を登ったり降りたり、足場の悪いところが続いたり、という道のりで、まっすぐ走っていくのとはもちろん全く違う難しさでした!


大変な道をどうして元気に前に進めるかというと、何よりも風景がどんどん変わるから。表現がチープで申し訳ないのですが「カレンダー写真の世界」が目の前に次々と現れ、「きゃー!綺麗!」と言いながら最近使っていなかったキャノンG12で写真ばかり撮るので、なかなか進まない!


昼食休憩に決めていた、唯一ベンチのある橋のたもとにたどり着いたのは午後の1時半で、予定の1時よりすこし遅れたかなーぐらいの感じでしたが、夕方の4時半になって5つある行程のまだ3の途中だった時には「大丈夫かなこれ…?」という気分になりました。


夫が「むず痒くなるぐらい親切すぎる描写」と表現するガイドブックの文章は、まさにスマホを持たずに歩きたかった私たちにはぴったりで、森の中の「砂利のちょっとあるような道がありますがそこは無視して次の左斜めの上がり気味の方の道を曲がってください」というような指示に従いつつ、奇跡的に迷うことなく正しい道を歩いて行ったのですが、知らない場所を一日中歩いていることによるのろさもあります。私が読んでも「この言葉どういう意味?」とわからないような自然に特化した描写も出てきて、立ち止まって考えたり。夫が大体それの示すところを知っていて助かりました。実は夫が知らない単語も数個出てきたけれど、頑張って想像しました。


私は歩いているうちに股関節が緩くなり、左の膝が痛くなってきて、何度も屈伸をしたり、途中の休憩では草の上に寝転んでストレッチをしたりしていました。でも不思議なことに最後の方では膝の痛みがきれいさっぱり取れ、ランナーズ・ハイみたいになったので「次の日が怖いな」と思いながらも、なんとか最後まで歩くことができたのでした。


夫は重い荷物を持ってくれたし、私のトレイル・ラン用の靴よりもかなり重いブーツを履いていましたが、なんだか飄々として歩いていて、若い頃に毎週の週末を遊んだ森の話をたくさんしてくれました。お父さんが亡くなってから彼の家族が持っていた森の家は売却したので、久々の森の休日になったようです。「これなんの木?」「あれ何の収穫してるの?」そんなことをいろいろ訊くと答えを知っていて驚きました。きのこも「これは毒だよ!」「これはものすごい毒だよ!」といろいろ教わりました。もちろんきのこは摘みませんでした!拾ったのは可愛い小さな松ぼっくりの枝。


一番感動したのは、最後の方にレッス河の激しい潮流のまさに川縁に降り、そこに沿ってずっと歩いたことです。本当に本当に素晴らしい空気、水音、景色でした。


秋の気配がキノコや木の実に感じられ、快晴で風も心地よく、一年分歩いた!というぐらい満喫しました。思ったより喉が乾いて、次に行く時はお水は2倍必要だね、と二人で話し合い「また行くの?」と顔を見合わせました。こんなことをしてみたのは結婚25年で初めてだったので面白かったです。テーマパークと違って、交通費以外、全くお金も使わなかった。


22キロ、のんびり歩いて結局6時間の丘歩きでした。

日本の山歩きも本当に奥深い世界だと思います。丘歩きは山よりももっと、川のせせらぎと森の木陰と常に共にあって、幻想的な感じです。何より、日焼けの心配はかなり少なくて済みました!とてもとても夏休みらしい行事ですね、自然を歩くのは!

桃代









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